Category Archives: 名作文学

#新生 #島崎藤村【日本の名作文学】

「岸本君――僕は僕の近来の生活と思想の断片を君に書いて送ろうと思う。然し実を言えば何も書く材料は無いのである。黙していて済むことである。君と僕との交誼が深ければ深いほど、黙していた方が順当なのであろう。旧い家を去って新しい家に移った僕は懶惰に費す日の多くなったのをよろこぶぐらいなものである。僕には働くということが出来ない。他人の意志の下に働くということは無論どうあっても出来ない。そんなら自分の意志の鞭を背にうけて、厳粛な人生の途に上るかというに、それも出来ない。今までに一つとして纏った仕事をして来なかったのが何よりの証拠である。

(略)

「父さん、どうするの」と学校から早びけで帰って来た繁が訊いた。
「ああそうだ、お節ちゃんが置いて行ったんだね」と泉太も庭へ下りて来て言った。
「やあ。僕も手伝おうや」
こういう子供を相手に、岸本はその根を深く埋め直して、やがてやって来る霜にもいたまないようにした。節子はもう岸本の内部に居るばかりでなく、庭の土の中にもいた。

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#鼻 #芥川龍之介 【日本の名作文学】

禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのである。

五十歳を越えた内供は、沙弥の昔から、内道場供奉の職に陞った今日まで、内心では始終この鼻を苦に病んで来た。

 

(略)

――こうなれば、もう誰も哂うものはないにちがいない。

内供は心の中でこう自分に囁いた。長い鼻をあけ方の秋風にぶらつかせながら。

 

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河童 芥川龍之介 【日本の名作文学】

「河童」
作:芥川龍之介

 

これはある精神病院の患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。
彼はもう三十を越しているであろう。が、一見したところはいかにも若々しい
狂人である。

 

(略)

 

あの河童は職を失った後、ほんとうに発狂してしまいました。なんでも今は河
童の国の精神病院にいるということです。僕はS博士さえ承知してくれれば、
見舞いにいってやりたいのですがね……。

 

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#高瀬舟 #森鴎外 【日本の名作文学】

「高瀬舟」
作:森鴎外

高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島を申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼び出されて、そこで暇乞いをすることを許された。それから罪人は高瀬舟に載せられて、大阪へ回されることであった。それを護送するのは、京都町奉行の配下にいる同心で、この同心は罪人の親類の中で、おも立った一人を大阪まで同船させることを許す慣例であった。これは上へ通った事ではないが、いわゆる大目に見るのであった、黙許であった。

(略)
庄兵衛の心の中には、いろいろに考えてみた末に、自分よりも上のものの判断に任すほかないという念、オオトリテエに従うほかないという念が生じた。庄兵衛はお奉行様の判断を、そのまま自分の判断にしようと思ったのである。そうは思っても、庄兵衛はまだどこやらにふに落ちぬものが残っているので、なんだかお奉行様に聞いてみたくてならなかった。

次第にふけてゆくおぼろ夜に、沈黙の人二人を載せた高瀬舟は、黒い水の面をすべって行った。

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#金色夜叉 #尾崎紅葉 【日本の名作文学】

「金色夜叉」
作:尾崎紅葉
未だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠めて、真直に長く東より西に横はれる
大道は掃きたるやうに物の影を留めず、いと寂くも往来の絶えたるに、例な
らず繁き車輪の輾は、或は忙かりし、或は飲過ぎし年賀の帰来なるべく、疎
に寄する獅子太鼓の遠響は、はや今日に尽きぬる三箇日を惜むが如く、その
哀切に小き膓は断れぬべし。

 

(略)

 

唯後に遺り候親達の歎を思ひ、又我身生れ効も無く此世の縁薄く、かやうに
今在る形も直に消えて、此筆、此硯、此指環、此燈も此居宅も、此夜も此夏
も、此の蚊の声も、四囲の者は皆永く残り候に、私独り亡きものに相成候て、
人には草花の枯れたるほどにも思はれ候はぬ儚さなどを考へ候へば、返す返
す情無く相成候て、心ならぬ未練も出で申候。

 

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銀河鉄道の夜 宮沢賢治 【日本の名作文学】

「銀河鉄道の夜」
作:宮沢賢治

 

「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと
云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか
。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった
銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。

 

(略)

 

ジョバンニはもういろいろなことで胸がいっぱいでなんにも云えずに博士の
前をはなれて早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知ら
せようと思うともう一目散に河原を街の方へ走りました。

 

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#雨ニモマケズ #宮沢賢治 【日本の名作文学】

「雨ニモマケズ」
作:宮沢賢治

 

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラツテイル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萱ブキ小屋ニイテ
東ニ病気ノ子供アレバ
行ツテ看病シテヤリ
西ニ疲レタ母アレバ
行ツテソノ稲ノ束ヲ負ヒ
南ニ死ニソウナ人アレバ
行ツテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクワヤソシヨウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒデリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイウモノニ
ワタシハナリタイ

 

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