「闇の絵巻」
作:梶井基次郎
最近東京を騒がした有名な強盗が捕まって語ったところによると、彼は何も
見えない闇の中でも、一本の棒さえあれば何里でも走ることができるという。
その棒を身体の前へ突き出し突き出しして、畑でもなんでも盲滅法に走るの
だそうである。私はこの記事を新聞で読んだとき、そぞろに爽快な戦慄を禁
じることができなかった。
(略)
闇の風景はいつ見ても変わらない。私はこの道を何度ということなく歩いた。
いつも同じ空想を繰り返した。印象が心に刻みつけられてしまった。街道の
闇、闇よりも濃い樹木の闇の姿はいまも私の眼に残っている。それを思い浮
かべるたびに、私は今いる都会のどこへ行っても電燈の光の流れている夜を
薄っ汚なく思わないではいられないのである。
(全部読む ) 青空文庫
(作者説明 ) ウィキペディア
(作品説明 ) ウィキペディア