#或る女 #有島武郎【日本の名作文学】

或る女

有島武郎

 

新橋を渡る時、発車を知らせる二番目の鈴が、霧とまではいえない九月の朝の、煙った空気に包まれて聞こえて来た。葉子は平気でそれを聞いたが、車夫は宙を飛んだ。そして車が、鶴屋という町のかどの宿屋を曲がって、いつでも人馬の群がるあの共同井戸のあたりを駆けぬける時、停車場の入り口の大戸をしめようとする駅夫と争いながら、八分がたしまりかかった戸の所に突っ立ってこっちを見まもっている青年の姿を見た。

 

(略)

 

葉子はだれにとも何にともなく息気を引き取る前に内田の来るのを祈った。
しかし小石川に住んでいる内田はなかなかやって来る様子も見せなかった。
「痛い痛い痛い……痛い」
葉子が前後を忘れわれを忘れて、魂をしぼり出すようにこううめく悲しげな叫び声は、大雨のあとの晴れやかな夏の朝の空気をかき乱して、惨ましく聞こえ続けた。

 

全部読む ) 青空文庫

作者説明 ) ウィキペディア

作品説明 ) ウィキペディア


新刊新書 漢字読みテスト 漢字書きテスト 名作文学 時事用語 歴史人名 現代社会 算数 道路標識

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です