「五重塔」
作:幸田露伴
木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用ひたる岩畳作りの長火鉢に対ひて話
し敵もなく唯一人、少しは淋しさうに坐り居る三十前後の女、男のやうに立
派な眉を何日掃ひしか剃つたる痕の青々と、見る眼も覚むべき雨後の山の色
をとゞめて翠のひ一トしほ床しく、鼻筋つんと通り眼尻キリヽと上り、・・・
(略)
・・・年月日とぞ筆太に記し了られ、満面に笑を湛へて振り顧り玉へば、両
人ともに言葉なくたゞ平伏ふして拝謝みけるが、それより宝塔長へに天に聳
えて、西より瞻れば飛檐或時素月を吐き、東より望めば勾欄夕に紅日を呑ん
で、百有余年の今になるまで、譚は活きて遣りける。
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