哲学入門(55) 三木清

第二章 行為の問題
一 道徳的行為
 行為に関する哲学的考察は、実践哲学、或いは道徳哲学、或いはまた倫理学と呼ばれている。行為という場合、普通にその道徳性が問題にされ、行為はおよそ道徳的行為の意味に理解され、その際、道徳は知識とか芸術とかと異るものと考えられている。しかし既に述べた如く、知識の問題も行為の立場から捉えられねばならぬ、知識の主体も操作的なものとして行為的と見られることができ、また知識についても知識の倫理がある。更に芸術の如きも、単に享受の立場からでなく、制作の立場から捉えられねばならぬ、芸術の主体も制作的なものとして行為的と見られることができ、芸術についても制作の倫理が要求されるであろう。かように物を行為の立場において見るということは、物を歴史的世界において見ることである。歴史的世界は行為の世界である。従ってドロイセンのいう如く、歴史的世界は道徳的世界である。もとより知識、芸術、道徳の間には区別がある。知識の根本問題は真理であり、道徳のそれは善であり、芸術のそれは美であるといわれている。しかしそれらを差別においてと同時に統一において把握することが重要である。
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