#にごりえ #樋口一葉 【日本の名作文学】

「にごりえ」
作:樋口一葉

 

おい木村さん信さん寄つてお出よ、お寄りといつたら寄つても宜いでは
ないか、又素通りで二葉やへ行く氣だらう、押かけて行つて引ずつて來
るからさう思ひな、ほんとにお湯なら歸りに屹度よつてお呉れよ、嘘つ
吐きだから何を言ふか知れやしないと店先に立つて馴染らしき突かけ下
駄の男をとらへて小言をいふやうな物の言ひぶり、腹も立たずか言譯し
ながら後刻に後刻にと行過るあとを、一寸舌打しながら見送つて後にも
無いもんだ來る氣もない癖に、本當に女房もちに成つては仕方がないね
と店に向つて閾をまたぎながら一人言をいへば、高ちやん大分御述懷だ
ね、

 

(略)

 

流石に振はなして逃る事もならず、一處に歩いて話しはしても居たらう
なれど、切られたは後袈裟、頬先のかすり疵、頸筋の突疵など色々あれ
ども、たしかに逃げる處を遣られたに相違ない、引かへて男は美事な切
腹、蒲團やの時代から左のみの男と思はなんだがあれこそは死花、ゑら
さうに見えたといふ、何にしろ菊の井は大損であらう、彼の子には結構
な旦那がついた筈、取にがしては殘念であらうと人の愁ひを串談に思ふ
ものもあり、諸説みだれて取止めたる事なけれど、恨は長し人魂か何か
しらず筋を引く光り物のお寺の山といふ小高き處より、折ふし飛べるを
見し者ありと傳へぬ。

 

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