#日輪 #横光利一 【日本の名作文学】

日輪 横光利一

 

乙女たちの一団は水甕を頭に載せて、小丘の中腹にある泉の傍から、唄いながら合歓木の林の中に隠れて行った。後の泉を包んだ岩の上には、まだ凋れぬ太藺の花が、水甕の破片とともに踏みにじられて残っていた。そうして西に傾きかかった太陽は、この小丘の裾遠く拡った有明の入江の上に、長く曲折しつつか水平線の両端に消え入る白い砂丘の上に今は力なくその光を投げていた。乙女たちの合唱は華やかな酒楽の歌に変って来た。そうして、林をぬけると再び、人家を包む円やかな濃緑色の団塊となった森の中に吸われて行った。眼界の風物、何一つとして動くものは見えなかった。

(略)

 

彼は恰も砂に呟くごとく彼女を呼ぶと、彼の瞼は閉じられた。卑弥呼の身体は顫えて来た。彼女の剣は地に落ちた。
「大兄よ、大兄よ、我を赦せ。彼を刺せと爾はいうな。」
卑弥呼は頭をかかえると剣の上へ泣き崩れた。
「大兄よ、大兄よ、我を赦せ。我は爾のために長羅を撃った。我は爾のために復讐した。ああ、長羅よ長羅よ、我を赦せ。爾は我のために殺された。」
長羅と反絵と卑弥呼を残して、彼方の森の中では、奴国の兵を追いながら、奴国の方へ押し寄せて行く耶馬台の軍の鯨波の声が一段と空に上った。

全部読む ) 青空文庫

作者説明 ) ウィキペディア

作品説明 ) ウィキペディア


新刊新書 漢字読みテスト 漢字書きテスト 名作文学 時事用語 歴史人名 現代社会 算数 道路標識

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です