日輪 横光利一
乙女たちの一団は水甕を頭に載せて、小丘の中腹にある泉の傍から、唄いながら合歓木の林の中に隠れて行った。後の泉を包んだ岩の上には、まだ凋れぬ太藺の花が、水甕の破片とともに踏みにじられて残っていた。そうして西に傾きかかった太陽は、この小丘の裾遠く拡った有明の入江の上に、長く曲折しつつか水平線の両端に消え入る白い砂丘の上に今は力なくその光を投げていた。乙女たちの合唱は華やかな酒楽の歌に変って来た。そうして、林をぬけると再び、人家を包む円やかな濃緑色の団塊となった森の中に吸われて行った。眼界の風物、何一つとして動くものは見えなかった。
(略)