歴史とは何か(3) 津田左右吉。

 ところが、人が行動すること、何ごとかをすること、は人の生活のはたらきである。人は行動することに於いて生活するのである。そこで、人の生活とはどういふものか、といふことを考へてみなければならぬ。それについて第一に知られるのは、生活は時間的に進行するもの、いひかへると過程をもつものだ、といふことである。人のすることは、どんな小さなことにでもその過程がある。よし短時間に於いてのことであるにせよ、一言一行とても時間的進行の過程の無いものは無い。或はむしろ、人は言行すること生活することによつて時間といふものを覚知する、といつてよからう。第二には、人が何ごとかをするのは、現在の状態を変へることだ、といふことである。一言一行でも、それをいはない前しない前といつた後した後とでは、それを聞いた人しかけられた人またはそれにあづかる事物に、何ほどかの変化を与へるのみならず、それによつて自己自身に変化が生ずる。外に現はれた言行でなく自己の心の動きだけでも、その前と後とでは自己の生活に変化がある。自己のいつたことしたこと思つたことなどが自己自身に制約を加へ自己を束縛するが、それは即ち自己を変化させることなのである。けれどもまたそれと共に、自己は自己として持続せられてゐる。今日の自己は昨日の自己ではないが、それと共に昨日の自己である。だからこそ変化があるのである。
この文章は、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/
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