性病予防法
昭和23(1948)年7月15日 法律第167号
昭和23(1948)年9月1日 施行(附則)
最終改正 平成7年 法律91
入力者注:第五条第一項中の「りん」、「かん」、「そけいりんぱ」及び「しゆ」並びに各条中の「売いん」の「いん」には傍点がふられている。
- 第一条【目的】
- この法律は、性病が国民の健康な心身を侵し、その子孫にまで害を及ぼすことを防止するため、その徹底的な治療及び予防を図り、公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的とする。
- 第二条【国及び地方公共団体の責務】
- 国及び地方公共団体は、常に、性病の徹底的な治療及び予防につとめるとともに、性病の治療及び予防に関する知識の普及を図らなければならない。
- 第三条【個人の責務】
- 何人も、性病にかからないようにつとめるとともに、性病にかかつたときは、速やかに医師の治療を受けなければならない。
- 第四条【医師の責務】
- 医師は、前二条に規定する国及び地方公共団体並びに個人の責務の達成に協力し、性病の治療及び予防につとめなければならない。
- 第五条【定義】
- 1
- この法律で「性病」とは、梅毒、りん(傍点)病、軟性下かん及びそけいりんぱ肉芽しゆ症をいう。
- 2
- この法律で「保護者」とは、親権を行う者又は後見人をいう。
- 第六条【医師の指示・質問、知事への届出、患者の居住場所変更の届出】
- 1
- 医師が、性病にかかつていると診断したときは、省令の定めるところにより、その性病にかかつている者(以下患者という。)又はその保護者に対し、性病の治療に関し必要な事項及び性病の伝染の防止の方法を指示し、その患者の氏名及び居住の場所並びにその患者に病毒をうつしたと認められる者その他省令で定める事項を質問し、一月以内に、文書をもつて、患者の居住の場所を管轄する保健所長を経て、必要な事項を都道府県知事に届け出なければならない。
- 2
- 患者が居住の場所を変更したときは、その患者又はその保護者は、診療を受けている医師に対し、その旨を告げなければならない。
- 第七条【患者が医師の指示に従わなかった場合等の医師の知事への届出】
- 医師は、性病にかかつていると診断した患者又はその診療している患者が、前条第一項の規定による指示に従わないとき、又は他の医師の治療を受けている旨の証明書を提出しないでその治療を受けないときは、患者の居住の場所を管轄する保健所長を経て、その旨並びに患者の氏名及び居住の場所その他省令で定める事項を、患者に病毒をうつしたと認められる者がさらに多数の者に病毒をうつすおそれのある者であるときは、その者の居住の場所を管轄する保健所長を経て、その者の氏名及び居住の場所その他省令で定める事項を、文書をもつて、すみやかに都道府県知事に届け出なければならない。
- 第八条【婚姻しようとする者の血液検査と診断書の交換】
- 婚姻をしようとする者は、あらかじめ、すすんで梅毒血清反応についての医師の検査を受けるとともに、相互に、性病にかかつているかどうかに関する医師の診断書を交換するようにつとめなければならない。
- 第九条【妊娠者の健康診断】
- 妊娠した者は、性病にかかつているかどうかについて、医師の健康診断を受けなければならない。
- 第十条【届出があった患者の疑いがある者に対する健康診断受診命令】
- 都道府県知事は、第七条の規定による届出に基づき、性病にかかつていると疑うに足りる正当な理由のある者に対して、性病にかかつているかどうかに関する医師の健康診断を受くべきことを命ずることができる。ただし、現に医師の治療を受けている旨の証明書を提出した者に対しては、この限りでない。
- 第十一条【売いん常習容疑者に対する健康診断受診命令・強制受診】
- 都道府県知事は、正当な理由により売いん常習の疑の著しい者に対して、性病にかかつているかどうかについて医師の健康診断を受くべきことを命じ、又は当該吏員に健康診断をさせることができる。
- 第十二条【性病のまん延の場合の健康診断受診命令・強制受診】
- 都道府県知事は、性病のまん延が著しい場合において、その治療及び予防のため、性病にかかつていると認めるに足りる正当な理由のある者に対し、省令の定めるところにより、健康診断の方法その他必要な事項を指定して、医師の健康診断を受くべきことを命じ、又は当該吏員に健康診断をさせることができる。
- 第十三条【病毒の検査】
- 医師が第十条又は第十一条の規定による健康診断をするに当つては、命令で定める方法による検査をおこなわなければならない。
- 第十四条【治療に関する報告の請求】
- 1
- 都道府県知事は、性病の治療及び予防上必要があると認めるときは、患者又はその保護者に対し、その患者が性病の治療に関し現に講じている措置について報告を求めることができる。
- 2
- 現に医師の治療を受けている患者について、前項の規定による報告を求められた場合においては、その報告を求められた者は、現に医師の治療を受けている旨の証明書を同項の規定による報告書に添付しなければならない。
- 第十五条【治療・入院・入所の命令】
- 1
- 都道府県知事は、必要があると認めるときは、現に医師の治療を受けていない患者又はその保護者に対し、医師の治療を受け、又は受けさせるべきことを命ずることができる。
- 2
- 都道府県知事は、性病の徹底的な治療及び予防を行うため、特に必要があると認めるときは、患者又はその保護者に対し、その患者の病毒が伝染する虞がなくなるまで病院又は診療所に入院し、若しくは入所し又は入院させ、若しくは入所させることを命ずることができる。
- 3
- 都道府県知事は、前二項の規定により、治療又は入院若しくは入所を患者及びその扶養義務者が、経済的理由により、治療費又は入院費若しくは入所費の全部又は一部を負担することができないときは、政令の定めるところにより、その費用の全部又は一部を代つて負担する措置をとらなければならない。
- 第十六条【地方公共団体による病院・診療所の設置】
- 1
- 都道府県又は市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、政令の定めるところにより、性病の治療を行うために、病院又は診療所を設置することができる。
- 2
- 都道府県又は市町村は、政令の定めるところにより、一定の期間を限り、適当と認める公私立の病院又は診療所を、前項の規定による病院又は診療所に代用することができる。
- 第十七条【都道府県が支弁すべき費用】
- 左に掲げる費用は都道府県がこれを支弁する。
- 一
- 第十条から第十二条までの健康診断に要する費用
- 二
- 第十五条第三項の措置に要する費用
- 三
- 都道府県の設置する病院若しくは診療所又は都道府県の代用病院若しくは代用診療所に要する費用
- 第十八条【市町村が支弁すべき費用】
- 市町村の設置する病院若しくは診療所又は市町村の代用病院若しくは代用診療所に要する費用はその市町村がこれを支弁する。
- 第十九条【国庫の負担】
- 国庫は、第十七条各号及び前条の費用に対しては、政令の定めるところにより、その二分の一(保健所にあわせて設置された診療所に要する費用については、三分の一)を負担する。
- 第二十条
- 削除
- 第二十一条【費用の徴収】
- 1
- 都道府県知事は、政令の定めるところにより、左に掲げる費用を、期限を指定して、本人及びその扶養義務者から徴収しなければならない。但し、都道府県知事において、本人及びその扶養義務者が、経済的理由により、その費用の全部又は一部を負担することできないと認めるときは、その費用の全部又は一部については、この限りでない。
- 一
- 第十条及び第十一条の健康診断に要する費用
- 二
- 都道府県の設置する病院若しくは診療所又は都道府県の代用病院若しくは代用診療所における診断に要する費用
- 2
- 市町村長は、政令の定めるところにより、市町村の設置する病院若しくは診療所又は市町村の代用病院若しくは代用診療所における診療に要する費用を、期限を指定して、本人又はその扶養義務者から徴収しなければならない。但し、市町村において、本人及びその扶養義務者が経済的理由により、その費用の全部又は一部を負担することができないと認めるときは、その費用の全部又は一部については、この限りでない。
- 第二十二条【立入検査・質問】
- 都道府県知事は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、当該吏員をして、患者又は性病にかかつていると疑うに足りる正当な理由のある者の住所若しくは居所又はその従業する場所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。
- 第二十三条【証票の携帯】
- 当該吏員が第十一条若しくは第十二条の規定により健康診断をなし、又は前条の規定により立入調査若しくは質問をする場合には、その身分を証明する証票を携帯し、関係人の請求があるときは、これを提示しなければならない。
- 第二十四条【読替規定】
- 1
- 第六条第一項、第七条、第十条から第十二条まで、第十四条第一項、第十五条及び第二十二条中「都道府県知事」とあるのは、地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第一条の規定に基づく政令で定める市又は特別区にあつては、「市長」又は「区長」と読み替えるものとする。
- 2
- 前項の市又は特別区にあつては、第十七条中「都道府県」とあるのは「市」又は「特別区」と、第二十一条第一項中「都道府県知事」とあるのは「市長」又は「区長」と読み替えるものとする。ただし、次に掲げる場合に限る。
- 一
- 前項の規定により読み替えられる第十条の規定により、市長又は区長が、医師の健康診断を受くべき事を命じた場合
- 二
- 前項の規定により読み替えられる第十一条又は第十二条の規定により、市長又は区長が、医師の健康診断を受くべきことを命じ、又は当該吏員に健康診断をさせた場合
- 三
- 前項の規定により読み替えられる第十五条第一項の規定により、市長又は区長が、医師の治療を受け、又は受けさせるべきことを命じた場合
- 四
- 前項の規定により読み替えられる第十五条第二項の規定により、市長又は区長が、病院又は診療所に入院し、若しくは入所し、又は入院させ、若しくは入所させることを命じた場合
- 第二十四条の二【再審査請求】
- 前条の規定により地域保健法第一条の規定に基づく政令で定める市又は特別区の長が行う処分についての審査請求の裁決に不服がある者は、厚生大臣に対して再審査請求をすることができる。
- 第二十五条【処分に際して訴訟ができる旨の告知】
- 1
- 都道府県知事又は地域保健法第一条の規定に基づく政令で定める市又は特別区の長は、第十条から第十二条までの規定による処分をするときは、その処分を受ける者に対して、当該処分の取り消しの訴えを提起することができる旨を告げなければならない。
- 2
- 前項の訴えが提起されたときは、都道府県知事又は前項の市又は特別区の長は、その判決が確定するに至るまで、当該吏員にその健康診断をさせてはならない。
- 3
- 第十一条又は第十二条の規定により健康診断を実施されようとした者は、これに関する不服の訴えを提起することができる。この場合においては、前項の規定を準用する。
第二十六条【罹病者の売いん】
伝染の虞がある性病にかかつている者が、売いんをしたときは、これを二年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
第二十七条【罹病者の売いんのあっ旋等】
1
売いんのあつ旋、勧誘又はその場所の提供をした者が、その売いんをする者につき、その者が伝染の虞がある性病にかかつていることを知つていたときは、これを三年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。
2
売いんのあつ旋、勧誘又はその場所の提供をした者が、その売いんをする者につき、その者が伝染の虞がある性病にかかつていることを、過失によつて知らなかつたときも、また同様である。
第二十八条【病毒感染行為】
1
伝染の虞のある性病にかかつている者が、性交、授乳その他の病毒を感染させる虞が著しい行為をしたときは、これを一年以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
2
前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
第二十九条【秘密漏示】
1
医師が、性病にかかつているかどうかに関する健康診断又は性病の治療に際して知得した人の秘密を、正当の理由なく漏らしたときは、これを一年以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。
2
第十一条の規定により健康診断をした当該吏員その他性病予防の事務に従事した公務員又はこれらの職にあつた者が、その職務執行に関して知得した人の秘密を正当の理由なく漏らしたときも、また前項と同様である。
第三十条【虚偽の答弁】
第六条第一項の規定によるその患者に病毒をうつしたと認められる者についての医師の質問に対し、虚偽の答弁をした者は、これを六月以下の懲役又は二千円以下の罰金に処する。
第三十一条【職務執行拒否等】
正当の理由なく、第二十二条の規定による当該吏員の職務の執行を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はその質問に対して虚偽の答弁をした者は、これを五千円以下の罰金に処する。
第三十二条【その他の罰則】
次の各号の一に該当する者は、これを三千円以下の罰金に処する。
- 一
- 第六条第一項の規定による指示若しくは届出をしなかつた者、又は第七条の規定による届出をしなかつた者
- 二
- 第十条又は第十五条第一項若しくは第二項の命令に違反した者
- 三
- 第十一条の規定による命令に違反した者、又は同条若しくは第十二条の規定による健康診断を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
- 四
- 第十四条第一項の規定による報告をしなかつた者
附則(抄)
- 第三十四条
- 花柳病予防法(昭和二年法律第四十八号)及び花柳病予防法特例(昭和二十年厚生省令第四十五号)は、これを廃止する。
附属法令
- 性病予防法施行令
- 昭和23年11月4日 政令329
- 昭和23年11月4日 施行
- 昭和23年9月1日 適用
- 性病予防法施行規則
- 昭和23年9月24日 厚生省令45
- 昭和23年9月24日 施行
- 昭和23年9月1日 適用
入力者:河原一敏