死があたかも一つの季節を開いたかのようだった。
死人の家への道には、自動車の混雑が次第に増加して行った。そしてそれは、その道幅が狭いために、各々の車は動いている間よりも、停止している間の方が長いくらいにまでなっていた。
それは三月だった。空気はまだ冷たかったが、もうそんなに呼吸しにくくはなかった。いつのまにか、もの好きな群集がそれらの自動車を取り囲んで、そのなかの人達をよく見ようとしながら、硝子窓(ガラスまど)に鼻をくっつけた。それが硝子窓を白く曇らせた。そしてそのなかでは、その持主等が不安そうな、しかし舞踏会にでも行くときのような微笑を浮べて、彼等を見かえしていた。
(略)
絹子はそう答えながら、始めはまだ何処かしら苦痛をおびた表情で、彼女の母の顔を見あげていたけれども、そのうちにじっとその母の古びた神々しい顔に見入りだしたその少女の眼ざしは、だんだんと古画のなかで聖母を見あげている幼児のそれに似てゆくように思われた。